足の痛みから発覚:歯周病が顎の骨を溶かしていた
右前足をかばって歩くようになった、と一頭の犬が来院しました。足を引きずる様子から、飼い主さんは関節の問題を心配していました。
レントゲン検査の結果、足の痛みの原因は「肩関節不安定症」という、関節が緩んでいる状態だと判明しました。しかし、そのレントゲン写真には、さらに深刻で、命に関わる問題が写り込んでいました。
それは、下顎の骨でした。重度の歯周病が進行し、細菌によって骨が溶かされ、いつ骨折してもおかしくないほどに脆くなっていたのです。その危険性は、私が口の中を直接覗くことさえ躊躇するほどでした。下手に触れば、「バキッ」と折れてしまうかもしれない、そんな緊張感が診察室に走りました。
顎のね、これ折れそうなんです。
足の診察で訪れたはずが、偶然にも極めて危険な口腔内の問題が発見されたのです。この症例は、口の中の細菌が体全体にどれほど深刻な影響を及ぼすかを物語っています。たかが歯の問題と軽視されがちですが、口腔衛生の悪化は骨の健康さえも脅かす、全身的なリスクとなりうるのです。